被膜児(ひまくじ)とは?
「被膜児(ひまくじ)」とは、その漢字から想像できるように、膜におおわれた赤ちゃんのことを指します。分娩の際に羊膜が破れず、羊膜に包まれたまま産まれてくる非常にめずらしい出産です。羊膜が破れないので、もちろん破水もしません。
別名で「幸帽児(こうぼうじ)」とも呼ばれ、幸せな帽子をかぶって産まれてくる「幸せな赤ちゃん」と例えられることもあります。
そんな「幸せな赤ちゃん」が、自然分娩で産まれる確率は、実に8万人に1人といわれています。なんと筆者は、そんな貴重な出産を経験したのです!
今回は、助産師と産科医を巻き込んだ、超レアな出産体験談をお届けします♪
陣痛の兆候がないまま出産へ
出産予定日1週間前の朝、ほんのわずかな「おしるし」のようなものがありました。
その日はもともと健診の予定が入っていたので、 助産師さんに連絡をすると、念のために産婦人科専用の救急窓口に行くようにと指示されました。
受付で事情を話すと、すぐに内診をすることに。すると衝撃的なことを言われたのです。
「子宮口開いてるね、もうすぐ産まれるわよ」
まったく陣痛の兆候がなかったので、びっくり!助産師さんにも「あなた痛み感じていないの?」と驚かれました。
そこからは、あれよあれよという間に出産準備がスタート。
出産前の検査で、B群溶血性レンサ球菌が陽性だったため、新生児GBS感染症※を避けるため抗生物質の投与がはじまりました。
入院手続きにサインをし、出産前の準備室へ。その時点で、午後1時を回った頃だったと記憶しています。
とりあえず何か食べておかないと思い、簡単な食事をとりました。その頃、ようやく陣痛を感じ始め「あぁ、産まれるんだ」と覚悟を決めたのです。
助産師が大集合した、にぎやかな出産
一気に陣痛が進み、もう産まれてくるだろうと感じ始めた時に、その奇跡的な瞬間が訪れました。
正直に言うと、当時のことはよく覚えていません。
記憶にハッキリと残っているのは、担当していた助産師さんが慌ただしく動き始め、ふと気が付くと、目の前には何人もの助産師や産科医が集まっていたことだけ。
そして、夫を呼びつけ「パパ、写真撮って!」と命令するというカオス状態に。
私は心の中で「こっちは苦しい思いをしているのに写真だなんて!しかもそんなプライベートな写真を!」と叫んでいました(笑)
そして午後4時過ぎ、無事に誕生。陣痛を感じ始めてから3時間ほどで産まれたので、安産であったと思います。産んでいる本人からは、産まれてきた赤ちゃんの姿は見えず、被膜児であったことは後から知りました。
8万人に1人の確率といわれる大変めずらしい被膜児の誕生に、その日勤務していた病院スタッフは大興奮!産まれたばかりのわが子を抱き、助産師さん同士でにぎやかな撮影会が始まるほどでした。
そんな特殊な出産を経験し、とても印象に残っていることがあります。
それは、出産に関わった助産師さんから「ありがとう」と感謝されたことです。
本来なら、出産をサポートしてくれたことにこちらが感謝するべきであるのに、貴重な体験ができたと逆にお礼を言われたのです。
こうして、にぎやかな雰囲気の中、たくさんの笑顔に囲まれて産まれてきたわが子。今思い出しても、本当に幸せな出産だったと温かい気持ちになります。
被膜児が“幸せな赤ちゃん”と呼ばれるのはなぜ?
実にめずらしく貴重な出産を体験したわけですが、なぜ幸せと呼ばれるのでしょうか?
筆者が住むイタリアでも、被膜児は幸せの象徴とされています。
その理由としてまず挙げられるのが、その希少性です。
前述のとおり、自然分娩では8万人1人の確率といわれ、奇跡的と表現されることさえあります。
しかし、稀な出産であること以上に、赤ちゃんにとって大切なベネフィット(恩恵)があるようです。
産道内を通り抜けるときの負担が少ない
胎児は狭い産道を抜けて産まれてきます。それまでお腹の中でゆったりと過ごしていた胎児にとって、出産の過程は大きな負担になるそうです。
羊膜に包まれたまま産まれてくる被膜児はというと、その負担が少なく、心身的なストレスが少ないといわれています。
感染症のリスクが減る
産道を通り抜ける際に、母親が持っている細菌やウィルスに感染することを産道感染と呼びます。被膜児の場合には、羊膜に守られているためその感染リスクが減ります。
筆者の場合、B群溶血性レンサ球菌(GBS)が陽性だったため、産道感染の可能性がありました。しかし、結果的に被膜児として産まれたため感染リスクはほぼゼロであったと考えられます。
もし自宅や外出先で被膜児が産まれたら?
妊娠・出産は人それぞれで、誰もが同じ経過をたどるとは限りません。
自然分娩で起こる確率は低いとはいえ、自宅や外出先で被膜児が産まれる可能性も考えられます。もし、そうした状況に遭遇したときは、落ち着いて対応することが大切です。
被膜児で産まれた場合、一番に気を付けることは、赤ちゃんの呼吸を確保してあげること。
顔全体が膜に覆われていれば、すぐに膜を破り呼吸ができる状態にしてあげましょう。口や鼻のまわりに膜が残っていたらしっかりと取り除いてください。
通常母体の外に出た時点で、肺呼吸が始まります。口や鼻が膜に覆われたままだと、呼吸ができず窒息の恐れがあるので、怖がらずに膜を破ってあげましょう。
ちなみに筆者の子どもは、羊膜に包まれたまま産まれましたが、その直後に自力で膜を破り肺呼吸を始めたそうです。